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    「風が強く吹いている」を読んで
    評価:
    三浦 しをん
    新潮社
    ---
    (2006-09-21)
    コメント:走ることをこんなに面白く書いた本は滅多にないのではないか。これだけの内容を2時間の映画にできる筈がない。大体箱根駅伝10区間を走るだけで10時間以上かかるんだから。

     知っているのに、つい見過ごしてしまう映画があります。話題になっているのに、つい読まずにきてしまった本というのも、ごまんとあります。というか、名作と呼ばれる本の殆どを読まずに人生を過ごしてきてしまいました、僕は。中にはとことん読書家で、たいていの本は読んでいるという人もいるかもしれませんが、速読術でもマスターしない限り、その殆どを読む事無く僕は一生を終えるにちがいありません。(いえ、速読術をマスターしたところで、大して違いはないでしょう)

    僕は、そんなふうについ読みのがしてしまった本を、海外旅行の機会に一冊持って行く事にしています。そうやって「海辺のカフカ」や「プリンセス・トヨトミ」などの話題作を周回遅れながら、読んでくることができました。今回の旅に選んだのは「風が強く吹いている」(三浦しをん著)。

    この本が出版された時、某映画会社に在籍中のことで、当時、映画の企画の部署におりましたので、2日とおかずに書店へと通ってめぼしい本を漁っておりました。箱根駅伝をテーマにした本ということで「映画になりそう」と、同じ部の若い女性がこの本を買い、週に一度の企画会議の席上で、いかに箱根駅伝が人気があるかを一同の前でプレゼンをしたことを覚えています。曰く、毎年正月の人気スポーツであること、襷をつなげなかったチームが涙を誘う事、10分以上差をつけられたチームは繰り上げスタートとなる事、等などを力説していた筈です。ところが、哀しいかな、自分で読まなかったために、所詮他人事で「ふうん」と聞き流してしまったのでした。もっと言えば「そんな駅伝なんか映画にしたって誰が見るの?」とか、やや否定的なコメントもしたように思います。

    それが、今回随分と月日が経って再び僕が手にした「風が強く吹いている」。最初は、正直、駅伝の本だしな、と、あの頃のやや否定的な気分のまま読み始めました。ところが、数ページのうちに、もう物語に引き込まれてしまったのです。

    ストーリーは、とある9室しかないボロアパートに10人目の住人が住む事になった所から始まります。今時東京で家賃3万円。しかも賄付きというそのアパートの住人は大学の学生さんばかり。その10人をあつめて箱根駅伝に挑戦することになります。ところが長距離経験者はわずか2人。ところがそんな8人を一年で鍛え上げて行くのが前半のストーリー。後半は、予選会に出場して見事箱根駅伝の切符を手にしてから本番を闘う様子が描かれます。

    何より10人のキャラクターがよくできています。イケメンの双子、ヘビースモーカーのニコチャン先輩、マンガお宅の王子、などなど、いずれも陸上とは縁遠そうな登場人物です。そんな彼らが次第に走ることにのめり込んで行く様子が面白い。

    まあ、ぶっちゃけ言うと、いくらなんでも未経験者ばかり、しかも補欠部員もいない10人ぽっきりのチームが箱根駅伝に出場なるかといえば、そりゃ無茶ですぜ、と言わざるを得ません。まあ、そこはマンガ的設定ということでお許しいただくとして、僕が舌を巻いたのは作中の走りの描写です。誰よりも早く走ることで見る事ができる世界というものを、著者は見事に描き切っています。特に(箱根駅伝にくわしい方には説明する必要もありませんが)復路6区の山下りのシーンでは、平地では無理な1キロ2分40秒代の超スピードで走る世界を表現していますが、ここの表現には思わず読んでいて涙が流れました。別に誰かが死ぬとかそんなお涙頂戴じゃなくて、ただランナーが走っているだけの描写です。

    今はランニングブームで、誰も彼も走っていますが、走る喜びをここまで表現したのは、僕が知る限りアラン・シリトー「長距離ランナーの孤独」以来です。「やられた」、ついつい唸りたくなるような一冊。思えば、あの時、「ちょっと読んでみるわ」と一言云えばよかったのです。もっとも、その後、ご存知のようにこの本は小出恵介他の出演でちゃんと映画になりましたけど。

    これだけの長い作品なのに、すこしもだれない。最後まで一基に加速していく物語性。三浦しをんさんに5年遅れで脱帽しました。

    | 座付き作家 | 雑記 | 17:17 | comments(0) | trackbacks(0) | - |
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