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    人質の朗読会
    評価:
    小川 洋子
    中央公論新社
    ¥ 1,470
    (2011-02)
    コメント:いつだって小川洋子の物語は、彼女特有の温度と匂いに満ちている。地球の反対側で起こった人質事件から2年後に明らかになった人質8人の遺書とも言える朗読会の記録。よくもまあ、こんな物語が生み出せるものだ。

     どこかで読んだことがある。いや、正確にはどこで読んだのか分からないが、この話を知っているような気がする。小川洋子の小説に触れる度、毎回同じ錯覚に陥ってしまう。

    「人質の朗読会」。地球の反対側の名前も覚えられないような山間の村で起きた人質事件。厳しい報道管制が敷かれたせいか、電気も通っていないような僻地で起こった事件のためか、その後殆ど情報が伝わることのないまま、やがて2年が経ち日本人が事件のことを忘れた頃、突如強硬突入をした政府軍との銃撃戦の挙げ句、犯人と人質8人全員が死亡する最悪の結果となった。

    と、ここまでは、まるでハリウッド映画を見ているような感じだが、ここから先が小川洋子。人質の遺族の元に録音テープが送られてくる。そのテープには、人質たちが生活していた猟師小屋の中で秘かに朗読会が行われていた。国際赤十字による人道支援の浄水器などに巧妙に仕掛けられた盗聴器を通じて、犯人や人質たちの会話は録音されていたのだ。ここからがこの小説の核心部だ。8人による8つの物語が語られる。それはこんな話・・・

    1、ある鉄工所の行員が、社員旅行の留守居番を言いつけられたが、ブランコから落ちてしまう。なんとか彼を助けようと、11才の少年が杖を見つける「杖」。

    2、整理整頓がモットーの口うるさいアパートの大家。ビスケット工場に勤める女性が月に1、2度持ち帰る壊れた英字ビスケットを並べて、2人だけのひっそりとした食事が続く「やまびこビスケット」。

    3、大学の出版局で校閲の仕事をする男性が、ある晩、公民館の受付の女性に手招きされて参加したのは危機言語を救う友の会の集まりだったという「B談話室」。

    というように、どれも想像もつかないような地味な、想像もつかないような奇天烈なエピソードが次々に語られるのだが、どれもこれも(当たり前だが)小川洋子好みのネタなのだ。どこの町にもきっといるのに、誰もその存在に気づかないような秘められた人間たちの物語。けっして変人というのではなく、ただ小川洋子好みの1点において、彼ら、彼女たちの話は他に類を見ない独特の物語となる。

    不思議なことに、僕にはどの物語もどこかで読んだことがあるような気がするのだが、本書を読むのは初めてであることもわかっている。とはいえ、連載中に読んだというようなこともないだろう。すると、前に読んだことがあるというのは誤りで、ただそんな気がするということになるのだが・・・

    「おばあさんに似ていると言われる女」、「突然台所を借りてコンソメスープを作る女」など、何とも言えない既視感がつきまとってならないが、確かにこんな奇天烈な話を小川洋子の小説以外に読み聞きする筈もないのである。

    そこで僕は考える。もしかして、僕という存在は実は非存在であり、小川洋子の小説の中に書かれた一人ではないか、と。その場合、僕は人質たちの朗読会を聞いている誰かということになるのだが。
    | 座付き作家 | 読書 | 08:21 | comments(2) | trackbacks(0) | - |
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      「杖」のお話は少年ではなく少女ですよ
      | はやと | 2018/10/10 12:09 PM |
      あれ、そうでしたか。失礼しました。ご指摘、ありがとうございます。
      | 座付き作家 | 2018/10/10 5:04 PM |









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